「サラーム・シネマ」~裁判員制度によせて
今日から裁判員制度がスタートしました。大多数の方々にとっては、これまで法廷など全くなじみのない場であったことでしょう。それが、これからはそうは言っていられなくなりました。私自身は、これまでに何度かタミル語の法廷通訳というかたちで、裁判に接してきました。法廷通訳の席は通常、裁判官席の左手前にありますので、証言台に立つ被告人らとは正面に向き合うことになります。その点で、これまで裁判官か裁判所職員でなければなかなか得られなかった視点で裁判の場を体験してきたことになります。それがこれからは、さらに一段高い(以前より若干低くはなるそうですが)裁判官席から、一般市民が裁判に参加することになるのです。この「視点の転換」は、単に裁判を見る位置が変わるというだけではない、大きな意味を持っていると言えます。
イランのモフセン=マフマルバーフ監督の作品に、「サラーム・シネマ」という映画があります。新作映画への出演者募集という名のもとに行なったオーディションの様子を撮影したドキュメンタリー作品です。映画の中では、なんとか映画に出演したいと人々がさまざまなかたちでアピールする姿や、それへの監督の厳しいダメ出しが描かれていますが、中でも印象深いのが、2人の女の子に、オーディションの審査員をやらせる場面です。オーディションの参加者としてやって来たときの2人は、なんとか合格を得ようと懸命に訴えかける姿をみせていましたが、ところが一旦、審査側の立場に立ったとき、彼女たちは、あたかも人が変わったように、参加者に次々と厳しい質問を投げかけ、問い詰めるのです。ある意味権力を持った立場に立ったときに、人間の行動がいかに変化するのかということが、はっきりと描かれていて、大変に面白いシーンでした。
裁判員制度でも、一般の市民が、裁判官と同じ視点に立ったとき、法相の言うように、「肩の力を抜いて」、裁判に加わることができるのでしょうか?数々の問題点を抱えてスタートする裁判員制度、「サラーム・シネマ」は、この制度について考えるうえでも、見る価値のある作品だと思います。
