『スラムドッグ$ミリオネア』の66年前
深尾先生の記事でも紹介されていますが、『スラムドッグ$ミリオネア』の公開が始まりました。映画の世界で、日本とインドとの関わりが深まったのは最近のことですが、戦時中には日本人がインド人を演じた映画がありました。
戦時中、欧米への抵抗を掲げた日本はインドの独立運動を支援していました。そのような状況下の1943(昭和18)年10月に封切られたのが、東宝作品『進め独立旗』です。インドのとある王国の王子・ナリンが、イギリスの追及を逃れ日本に潜伏し、独立運動をさらに進めようとするが、イギリス側の追っ手が迫り...というストーリーですが、当時、そのキャストが大変な話題になりました。ナリンを演じたのは時代劇の大スター・長谷川一夫、ナリンを支えるキショールを森雅之が演じ、負傷したナリンを救うキサを演じたのは轟夕起子と、主要なインド人の役は日本人が演じたのです。
無声映画時代に白塗りの美男子でデビューし、松竹から東宝に移籍した後も颯爽とした美男子を演じ続けていた長谷川は、この作品では浅黒いドーランを塗り、ターバンを巻いた姿で登場します。同じ1943年3月に『姿三四郎』(黒澤明監督)で可憐な娘姿を見せた轟も、サリーを着ています。監督は長谷川一夫とのコンビで『雪之丞変化』(1935年、この時は長谷川一夫ではなく林長二郎を名乗っていました)など、強力な観客動員力を持つ時代劇を世に送り出していた衣笠貞之助でした。
今では想像もつかない『進め独立旗』のスタッフ・キャストですが、翌1944年に長谷川一夫は港湾労働者の重要性を説く現代劇『命の港』(渡辺邦男監督)にも主演しており、戦時下において、長谷川には「物語のなかの美しい男性」だけではなく、「現代の問題に関わる役柄」を演じることが求められていたようです。
