~西5でちょっとだけお茶を~ 「蟹工船、遂にクランク・イン!」
去る7月19日のブログ「映像化を仕掛けるのは誰だ!」で、私は若い世代に脚光を浴びている昭和初期のプロレタリア文学「蟹工船」を取り上げ、今日のブームを迎えた要因を分析した。そして、「間髪を入れず、この時期を逃さず映像化すれば、ヒットは期待できると思うのだが、どうやら水面下では実際に映画化への動きがあるらしい」、「先陣を切って私たちの前に登場する"蟹工船"の勇気ある製作者は、果たして誰なのだろうか?」と結んだ。
この程、発表から80年を経てようやく映画化が決まり、「疾走」などで知られるSABU(田中博行)監督がメガホンを取る。
労働者階級の闘いを描いた同作は、格差社会と言われる現在のワーキングプアの若者たちとも重なるのだろう。映画化にあたっての情報を集めてみると、SABU監督は声高に問題を叫ぶ作品にはしない意向で「テーマはきちんと描きますが、説教臭くはしたくない。エンターテインメントでポップな"蟹工船"になると思います」と言っているので、出来上がりがとても楽しみだ。
原作には特定の主人公がいないが、映画では、他の労働者に蜂起を呼びかける男、新庄をリーダーになれるカリスマ性があると松田龍平が起用された。また労働者を監督する浅川役は西島秀俊が演じる。時代設定を明確には特定しないことも特徴になる。船内の寝床はカプセルホテルのようでいて、タコ壺のようになる。美術や衣装にもこだわり、ポップな雰囲気を強調するという。船の揺れもCGを使ってリアルに表現する。栃木県足利市で11月30日からロケが始まった。倉庫内の雰囲気が暗い船内のイメージにぴったりだとしてロケ地に選ばれた。倉庫を借り切ってカニ加工場や工員が寝泊まりする船上生活を再現。地元市民も工員姿のエキストラで参加した。
この原作は昭和28年に山村聡の監督・主演で一度だけ映画化(カルロヴィ・ヴァリ映画祭監督賞)されている。作家で脚本家だった猪俣勝人氏は、当時、"日本映画名作全史"の中で「佐分利信と共に、日本の代表的な中年(初老)役のスターである山村聡が自ら主宰する現代プロダクションで自主製作するというのだから、余計無理な背伸びをした企画だと思わずにいられなかったのだ。だが出来上がった映画は立派だった。僕の予想をはるかに超えた力作というより完成度の高い傑作になっていた。山村聡がスターという安全な場所から修羅場へ乗り出してきて、この映画をつくった勇気と行動力には敬服せずにはいられない」と惜しみない讃辞を送っている。
今回のSABU監督は今年に入って起こったブームよりも、船という密室で物語が進む設定に魅力があったと言うが、「原作を読んですぐに映像が浮かびました。ブラックユーモアたっぷりに描きます」と意気込みを語る。SABU監督作は国際的にも評価が高く、海外映画祭なども視野に入れている今作が、あらゆる点で旧作を凌ぐ出来栄えになることを期待しよう。09年初夏の一般公開を目指す。

SABU(サブ/映画監督・俳優)
1996年「弾丸ランナー」脚本・監督(第18回ヨコハマ映画祭新人監督賞受賞)
1997年「ポストマンブルース」原案・脚本・監督
1998年「アンラッキー・モンキー」原案・脚本・監督
2000年「MONDAY」原案・脚本・監督(第50回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞)
2002年「A1012K」(ショートムービー)原案・脚本・監督
2002年「DRIVE」原案・脚本・監督
2003年「幸福の鐘」原案・脚本・監督(第53回ベルリン国際映画祭NETPAC賞受賞)
2004年「ハードラックヒーロー」脚本・監督
2005年 V6×SABU「ホールドアップダウン」
2006年「疾走」脚本・監督(原作 重松清/第56回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品作品)
