« 映画 「40歳問題」のエンディングに参入 ブログトップ ~西5でちょっとだけお茶を~ "是枝裕和"に注目しよう! »

2008年9月13日

07加藤厚子

リンゴはなんにもいわないけれど

今年はオリンピック中継の影響なのか、いつもは8月に集中する戦争関連番組が9月も放送されているようですが、このような番組で、終戦後の闇市の映像とともによく使われる音源が「リンゴの唄」です。並木路子の歌声でおなじみのこの歌、『そよかぜ』という松竹の映画作品の主題歌であることはあまり知られていません。監督は佐々木康、主役は並木路子・佐野周二・上原謙、ストーリーは、劇場で照明担当をしながら歌手を夢見る女の子「みち」が、周囲の楽団員たちに励まされながらスター歌手になる、というものです。

『そよかぜ』は終戦前後のあわただしさのなかで生まれた作品でした。

家族が疎開していた横手(秋田県)にいた佐々木のもとに、大船撮影所長から「とにかく10月の初旬に間に合わせたい。なんとか9月末までに一本撮ってくれ。内容なんかどうでもいい。君に全部任せる。9月いっぱいに撮影を上げてくれたら、賞与をやるよ」という連絡が来たのが1945年8月25日。戦争末期に佐々木に持ちこまれた脚本を1週間足らずで作り直して主役を決定し、佐々木の妻の従兄弟のリンゴ園を借りてロケ撮影、「リンゴの唄」の作曲が間に合わず並木に「丘を越えて」を歌わせながらロングで撮影、アフレコでやっと「リンゴの唄」を入れる―というあわただしさとはうらはら(?)に、作業をする人々とあいさつしながら、りんごの木の間をぬって歩いていくみちが、スキップしながら「リンゴの唄」を歌うシーンは、明るく開放的で、印象的なシーンになっています(ロケ地になった横手市の真人公園には「リンゴの唄の碑」があります)。

 『そよかぜ』は予定通り10月に公開されましたが、この頃はまだ営業できる映画館が少なかったため、ヒット作とはなりませんでした。しかし、並木がラジオで「リンゴの唄」を歌ったことをきっかけに、歌は爆発的にヒットし、戦後のはじまりを強く印象づける歌となっていきます。

 佐々木は「戦後のはじまり」と縁が深く、翌年には"接吻映画第1号"といわれている『はたちの青春』も監督しています。戦時中、空襲の目標とならぬよう照明にカバーをかけ光が外にもれないようにすることを「灯火管制」と呼んでいましたが、佐々木はそれにひっかけて、「トーカカンセイ(十日完成)」というあだ名で呼ばれていたそうです。日本の映画会社は、戦後の急激な変化に臨機応変に対応しなければならず、「トーカカンセイ」であるがゆえに佐々木は、はからずも時代の先頭に立ち続けることになります。その波乱万丈ぶりについては、佐々木康著(佐々木真・佐々木康子監修、円尾敏郎・横山幸則編)『楽天楽観 映画監督佐々木康』(ワイズ出版、2003年)を御参照下さい。

← 前ページに戻る