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事業構想論とプロデューサー

2008年8月 9日 20:35 [04大野克人]

 銀行から宮城大学事業構想学部に転職する時、楽しみにしていたことの一つが「事業構想論」を研究・教育することであった。事業構想学部というのは、宮城大学にしかない学部であり、事業構想論という学問分野も明確に定義されているわけではない。

私が「事業構想論」を教えることができると考えた理由は三つあった。

第一の理由は、ハーバードのコッター教授が強調されている経営論で、経営にはビジョンと事業構想を提示し、リーダーシップを発揮して新しい分野に挑戦する機能と、既に存在している事業や組織を運営管理する機能があり、米国を含め世界の経営は後者の運営管理機能が過剰の状況にあるという考えである。日本にはこの傾向が一層強く、運営管理することが経営者やリーダーのすべてであると誤解している人も未だに少なくない。しかし、キャッチ・アップする相手や分野が少なくなった80年代以降のわが国では、ビジョンと事業構想の提示が格段に重要になったが、それが十分認識されていない。つまり、事業構想論とは、経営や財務といった経営に関する知識体系を将来に向けた事業構想に必要な体系に組み替えれば良さそうだというのが私の考え方である。

第二に、銀行生活の後半20年は、金融新商品や新技術の開発、それら新商品の事業化とプロモーションに携わってきた。企業体の内部の人間ではあったが、社内起業家として事業構想や新商品の企画・プロデュースに関係してきたという自負と経験を持っている。

第三に、大銀行で働くということは広く浅くではあるが、たくさんの人と知り合いになり、会社や事業経営の多様さを自然に事例研究することになる。どのような人間や事業が信頼できるか、将来性があるか、を見抜くことは銀行マンの本来的な基本機能であり、成功例や失敗例をたくさん見聞してきている。

 事業構想という素晴らしい名前を持った学部ではあるが、学生の多数派は単なる通過点としか考えていないものの、起業家やプロデューサーを目指している学生も少なくなかった。特に、入学試験の面接で、少なからぬ志願者が「プロデューサーになりたいので、事業構想学部に入学したい」と言っていたことが印象に残っている。実際、文化事業経営関連の授業やゼミは人気を集めていたし、角川映画からも客員教員がみえていた。

 したがって、映画・映像コンテンツ産業のプロデューサーやプロフェッショナル育成を目的に設立された弊学に移籍することも、私の観点から見れば、整合性を認めることが出来ている。「古手の銀行員が映画大学院で何をしているのか」というのは、事情を知らない連中で、ほっておくことにしている。

 

 何故このようなことを書きたくなったかというと、「トップ・プロデューサーの仕事術」という文庫本(日経ビジネス人文庫)を読み終わったからである。五味一男、亀山千広、李鳳宇等々ほぼ全員が弊学に関係する分野で実績を残されているプロデューサーで、本の内容は、忙しい売れっ子プロデユーサーたちから話を聞きだし、相当部分をジャーナリストの梶山寿子さんが書いておられる感じであるが、全体として同感することが非常に多かった。特に、印象に残った部分をいくつか下記に引用することにするが、3時間で読める分量だから、ご自分で読まれることをお勧めしたい。

 

①プロデューサーの仕事とは、クリエイティブの現場とビジネス・サイドをつなぐこと。クリエーターの「作品」をいかに「商品」にするかが、コンテンツ・プロデュースの肝といえるのだ。 

②プロデューサーが備えるべき能力は多岐にわたる。主要なものは、「新しいプロジェクトを立案する企画力」「幅広い人脈から最適の人材を選び出すキャスティング力」「スタッフをやる気にさせ、能力を引き出すマネジメント力」「事業を遂行する実行力、決断力」「必要な資金を集める資金調達力」「商品・サービスをヒットさせるマーケティング力、宣伝力」など。一般企業に置き換えると、新規事業を率いるプロジェクト・リーダーに近い存在だといえる。

③プロデューサー的な能力やスキルをつけることは、今後あらゆる業種のビジネスにおいて強い武器となるに違いない。新しい技術や製品、ビジネス・モデルがあっという間に陳腐化するなか、たゆまぬイノベーションが企業の持続的な成長の決め手となる世の中になった。私たちはクリエイティビティーが主導する「クリエイティブ経済」に直面している。

 

 未だ纏めきれていないが、私の「事業構想論」とほとんど同じ認識である。