泳ぐ時代劇
すっかり暑くなり、プール用具を持っている小学生の姿をよく見るようになりました。
今回は暑い時分にぴったり(?)な時代劇、『河童大将』(大映)の御紹介です。
1944年8月に公開されたこの風変わりなタイトルの映画は、「武士たちが水練(水泳)で敵に挑む」というストーリーで、戦争中であった当時、日本国民に水泳を普及させる「国民皆泳運動」に連動させた企画でした。主人公の尼子氏の足軽頭・荒波碇之助を演じるは"アラカン"こと嵐寛寿郎、荒波のライバル・早川鮎之助を演じるのは羅門光三郎、いつもは殺陣で観客を魅了する二人が水練アクション(?)に挑戦しています。
物語の山場は荒波・早川による毛利軍への奇襲攻撃です。クロールに似たスピードのある泳法・早抜き手で毛利軍に迫った早川の軍勢は、水しぶきを上げて目立ってしまい、さらには水中に仕かけられた鳴子に引っかかり敵に見つかってしまいます。スピードは遅いけれど敵に見つかりにくい平泳ぎ(伸し)でじりじりと敵に迫っていた荒波率いる軍勢は、直前まで敵に見つかることなく上陸に成功し、早川の危機を救い、尼子軍勝利の端緒をひらきます。
この作品、大映もかなり推していたようで、映画館向けに作られたと思われる「宣伝の注意」には次のような事項が挙げられています。
「題名が甚だ秀逸なので、こいつをどしどし生かすこと」
「傍題として『泳ぐ時代劇』と付けたら、より効果的となる。明るさも出る。楽しさも出るように思う」
「画の運びが非常に快速調を極めているので、この点を頭におき、『高田馬場前後』の松田定次演出も売りものになる」
さらにはこんな事項まで挙げられています。
「「国民皆泳」とか「練成」とかいうことに触れたくない、時代劇に限らず、現代劇でも固い売り方をしては客は逃げる」
1944年当時、時代劇は現代劇よりも興行成績が良好だったため、映画会社はいろいろな名目で時代劇を量産する一方、マンネリを打破し観客をひきつけるべく様々な工夫を凝らしていました。『河童大将』も製作の名目は「国民皆泳運動」でしたが、大映が実際に重点を置いていたのは、「泳ぐ時代劇」という目新しい「コンテンツ」によって、少しでも多くの観客を動員することだったようです。
(「宣伝の注意」は『河童大将』キネマ倶楽部日本映画傑作全集・解説リーフレットより引用し、一部を現代仮名遣いに改めました)
