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小林正樹監督「切腹」

2008年7月18日 02:45 [04大野克人]

 平和ボケ日本の象徴としてのユルーイ作品の対極にある映画は何ですか、と聞かれたので、取り敢えず、小林正樹監督の「切腹」と答えた。1962年に、橋本忍脚本、仲代達也、三國連太郎主演の白黒映画として制作された本作は、まったく無駄がなく、終始緊張感を感じさせられる日本映画史に残る傑作だと思う。

武士道を描いた古臭い映画との印象を持つ人も居るかもしれないが、平和ボケ日本の近未来を暗示していると見ることもできる。格差社会になりつつあるわが国で、弱者は立派な人間であっても生存することすらできなくなることを暗示していると見ることも出来よう。国家として落ちぶれてしまうと、力を持った国の論理に玩ばれ、追い込まれてしまうことになることを暗示しているようにも思われる。この間まで徒党を組んで自分の論理を通すことの出来た大銀行に勤務し、今は弱い一介の大学教員として生きているわが身には、徒党サイドの論理も徒党になぶられる側の無念さも感じることができ、身につまされるものもある。弱い立場からの主張を認めさせることは難しい。映画・映像産業の権力者に、力のない新米教員のあるべき産業論を認めてもらうことは大変難しい。

40年以上昔に、日本はこれだけの映画を作っていた。30歳前後の仲代があれだけの演技をしていた。あの時代の日本人は、ギリギリの緊張感を持って映画を作り、多くの観客がその緊張感を分け合っていた。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞しているから、世界にそれをアピールもしていた。その後の経済的成功が、安手の成金趣味を招き、文化的成熟をもたらすことなく、急速に下降線を辿ることになるとすれば、極めて残念である。相場格言にいわく、「上がるは十年、落ちるは十日」。

「切腹」についての若い人の感想を聞いてみたい。