「真昼の不思議な物体」~語り、想像力
2008年7月 4日 20:46 [10深尾淳一]
現在、シネマート六本木で開催中の「タイ式シネマ★パラダイス」で、特別上映されたアピチャッポン=ウィーラセタクン(アピチャートポン=ウィーラセータクン)監督の作品を、先日2本見ました。
1本は、「アイアン・プッシーの大冒険」。女装の秘密諜報部員が悪者を倒すお話ですが、ウィーラセータクン作品としては、あまり触れられることのない作品で、やはり、それほどおもしろいとは感じませんでした。ところどころに、主人公を木に縛りつける縄がゆるゆるだったり、主人公が悪者のリーダーの「妹(?!)」であることが突然わかったりというルースな展開が見られ、たぶんにタイ風西部劇的アクション映画(「トム=ヤム=ウエスタン」ということばもあるとか、ないとか)へのオマージュを意図したものと察せられますが、しかし、その趣向も決して生きているとは思えません。ただ、次に上げる作品もそうですが、この監督の作品を見ていると、かつて訪れたバンコクの雑踏と喧騒、湿気を含んだ生暖かい風が臨場感を持ってよみがえってきて、なんとも懐かしい気分にさせられます。
一方、もう1本の「真昼の不思議な物体」は、非常に興味深い作品でした。山形国際ドキュメンタリー映画祭でも高い評価を受けた作品ですが、いわゆる普通のドキュメンタリーとは一線を画する実験的な作品です。あるラジオドラマの一節を発端に、タイ各地の老若男女、さまざまな人たちが次々とそこに「話のつづき」を自由に付け加えていく、その様子とそこで語られるストーリーを映像化したものとを、混ぜ合わせながら描いていくという作品なのです。そこで展開される想像力に満ちた豊かな語りには、目を見張るほかありません。
私が日ごろお世話になっている拓殖大学教授の坂田貞二先生は、インド北部の民話研究の専門家ですが、坂田先生のお話などを聞いて、常々感じることは、インドでは、日常の暮らしの中で、まだまだ「語り」が生き生きと息づいているということです。この映画を見ていると、タイにもまだそんな世界があるのだなと強く感じられました。翻って、日本のことを考えると、逆説的ではありますが、テレビや映画からのあふれ出る、出来合いの「物語」の氾濫が、かえって、私たち個人個人の想像力の働く場を奪ってしまっているのではないか、と感じることがあります。それは、この国での映像産業の衰退にまでつながりかねないともいえるでしょう。人々の想像力を喚起するようなすぐれた映像作品がもっと作られなきゃいけない、そんなことも感じさせたこの映画でした。
歴史巨編から、コメディー、アクション、スリラー、ラブストーリーまで、新作タイ映画も満載の、本邦初のタイ映画専門の映画祭「タイ式シネマ★パラダイス」も、来週で終わりです。ぜひ皆さんもどうぞ!
詳しくは、www.cinemart.co.jp/thaishiki/index.htmlまで。
さて、タイ映画を含めた、東アジア、東南アジアの映画については、10月からの授業「アジア映画映像論Ⅰ」で取り扱います。

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